ラーメン職人の熱いストーリー ラーメン 東へ西へ

ラーメン東へ西へ No.64 名島亭 城戸 修さん

まだ太陽も昇らない朝6時。毎日、誰よりも早く店に入る。それから店を後にする21時まで、片時も厨房から離れない。店主は一瞬の油断で信用が失われるこ とを知っているからだ。東区にある『名島亭』は、車通りもまばらな裏通りにありながら、昼時は常に行列ができることで有名な人気店。08年4月に放送され たFBS福岡放送『九州ラーメン総選挙2008』で見事1位に輝くなど、地元密着を信条としながらも、その実力は県内外のラーメン通をも唸らせる。店主・ 城戸修さんが大切にし続けてきたものとは…。


既存のラーメン店にないものを求めて

『名島亭』のルーツは長浜の屋台だ。小中高とオーケストラの団員を目指していた城戸さんは、24歳になったある日、ふと自分の周囲を見渡した。就職して社会の荒波にもまれる友人たちの姿に言いようのない不安を覚える。

「このままでは音楽が好きでいられなくなってしまうのでは、と思ったんです。どこかに僕の居場所はないか。そう思っていた時に閃いたのがラーメンでした」

中学生の頃からよく長浜の屋台に通っていた城戸さんにとって、いつしかとんこつラーメンはソウルフードとなっていた。

当時はお世辞にも綺麗といえない店内、客を客とも思わない無愛想な店員が対応するようなラーメン店が多かった。清潔な店作りに取り組み、感謝の気持ちを大切にすれば必ず成功する ――― そう確信した城戸さんは、自身が慣れ親しんだ長浜の地で修行をしようと決意。人気の屋台『長浜一番』に弟子入りした。

貴重な経験と親友が得られた修行時代

「休みは月に一度きり。しかも毎日10時半から深夜2時まで働き通し。がむしゃらに働きましたね。でも、あのハードな毎日が今の糧になっています」

昔気質の大将から、とにかく技を盗んだ。見て、試す。毎日がその繰り返しだった。

修行をはじめて6年が経ったある日。店長を任されるようになった城戸さんの元に、「ラーメンの勉強をさせてほしい」とイキの良い若者が訪れた。その男こそ、若き日の河原成美だった。

「僕も研究熱心なほうだと思いますけど、成美ちゃんも負けてなかったですね。とにかくアツい(笑い)。全国的に見ると、とんこつラーメンのシェアはまだまだ低かった。みんなに食べてもらえる本当に美味いとんこつラーメンを作ろうと互いに夢を語り合い、寝食を忘れて研究に没頭しました」

歩む道のりは違えど、目指すステージは同じ。夢を共有できる親友を得られたことを機に、ますます修行にも力が入った。

信じてくれる人の想いに応えたい

36歳、念願だった店を構えた。店作りにおいて一番こだわったのが厨房だ。作業効率を考え抜いて高さを微調整したテーブル、仕込みを円滑にするために特注 した四つ手の寸胴鍋など、修行で培った経験をもとに随所に創意工夫を盛り込んだ。今では手を加えてない場所を探すほうが難しい。

店の命ともいえるスープ作りにも並々ならぬ情熱と愛情を注ぐ。試行錯誤の末にたどり着いたのが、スープ釜を空にせず、減った分のスープを継ぎ足す『呼び戻 し』だ。“本物”を求め、本場・久留米から五右衛門釜を取り寄せた。火力が強く、良いスープがとれる反面、わずか10分でも目を離すと風味が失われてしま うほど取り扱いが難しい。まるで生き物のように刻一刻と状態を変えていくスープを相手に、丁寧にアクを取り、とんこつのうま味をギュッと閉じこめる。

「今日食べても次の日にまた食べたいと思える味こそ、僕が一生を懸けて追い求める理想です」

完成したスープは、奥深いコクとまろやかな味わいが主張しながらも、驚くほどあっさり。静かに、だが確実に舌と脳裏に残る。

しかし、現状には満足することはない。さらなる向上心が城戸さんを突き動かす。

「新しい環境、味を生みだそうとすれば、当然失敗もします。失敗しないのは簡単。チャレンジしなければいいんですから。でも、僕はこれからもチャレンジすることを選び続けるでしょうね」

自身の目が行き届く範囲でラーメンを作っていきたいという思いから、支店は出さず、店舗も大きくしない。あくまで自分のペースを大切にしてきた。ラーメン の世界に飛び込んで20年以上経つが、初めてラーメンを食べてもらった時にわき起こった感謝の気持ちは今でも忘れていない。

「ここまでやってこられたのは、家族や周りが信じてくれたから。今の時代は、信じることすらままなりません。だから、なおさらその想いに応えていきたいんです。信じてくれる人がいる限り、厨房に立ち続けますよ」

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(取材・撮影・執筆・編集/力の源通信編集部)


名島亭
住所:福岡市東区名島2-41-7
TEL:092-662-3566
定休日:水曜(祝日の場合は営業)
営業時間:11:00~20:00頃(売り切れ次第閉店)

名島亭

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名島亭
店主
城戸修
(きど・おさむ)

『有限会社 名島亭』代表取締役。昭和26年、福岡県博多区で生まれる。店では奥さん、2人の姉妹が看板娘として店を明るくもり立てている。ラーメンはもちろん、餃子 が付くラーメン定食や、おでん定食も人気が高い。趣味は音楽鑑賞と写真。最近、フィルムカメラに加えてデジタルカメラを購入。カメラを片手に九州各地の山々へトレッキングに出掛けるのが何よりの楽しみ。研究のためにと食べ歩きも欠かさない。